はじめに:外国人雇用を検討する企業が増加中
日本の労働力人口が減少する中、企業における外国人材の採用は年々増加しています。厚生労働省の発表によると、2024年10月末時点の外国人労働者数は約200万人を超え、過去最高を記録しました。しかし、外国人雇用には独自の手続きやルールが存在するため、正しい知識を持って取り組むことが重要です。
本記事では、外国人雇用を検討している企業担当者向けに、在留資格の確認から採用手続き、雇用状況届出書の提出方法、活用できる助成金まで、実務に即した情報を詳しく解説します。外国人雇用に関する不安を解消し、適切な採用・雇用管理の一助となれば幸いです。
1. 外国人雇用の基本:在留資格の確認が最優先
外国人を雇用する際に最初に確認すべきは「在留資格」です。在留資格とは、外国人が日本に滞在して活動するために必要な資格で、職種や活動内容によって29種類に分かれています。雇用する前に必ずこの在留資格を確認しなければ、不法就労となり罰則を受ける可能性があります。
1-1. 在留資格は3つのタイプに分類される
在留資格は大きく3つのタイプに分かれており、それぞれ就労の可否が異なります。
① 就労に制限がない在留資格
- 永住者:法務大臣が永住を認めた者
- 日本人の配偶者等:日本人の配偶者・子・特別養子
- 永住者の配偶者等:永住者・特別永住者の配偶者、日本で出生し引き続き在留している実子
- 定住者:第三国定住難民、日系3世等
これらの資格を持つ外国人は、日本人と同様に職種や勤務時間の制限なく就労できます。
② 就労に制限がある在留資格
- 技術・人文知識・国際業務:エンジニア、通訳、デザイナーなど
- 特定技能:特定産業分野の人材(介護、建設、農業など)
- 技能実習:技能実習生
- 高度専門職:高度な専門性を持つ人材
これらの資格では、認められた範囲内でのみ就労可能です。例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つITエンジニアが飲食店の調理師として働くことはできません。
③ 就労が認められない在留資格
- 留学:大学生、専門学校生など
- 家族滞在:就労資格を持つ外国人の配偶者・子
- 文化活動:日本文化の研究者等
- 短期滞在:観光客、会議参加者等
ただし、「留学」「家族滞在」などは「資格外活動許可」を取得すれば、週28時間以内のアルバイトが可能です。
1-2. 在留カードで確認する方法
在留資格の確認は「在留カード」で行います。カードの表面には「在留資格」「就労制限の有無」が、裏面には「資格外活動許可」の有無が記載されています。
雇用前に必ず在留カードの確認を行い、その外国人が予定している業務に就労できるかを判断しましょう。在留カードのコピーは取得し、保管しておくことをお勧めします。
2. 外国人採用の種類と手続きの流れ
外国人採用の手続きは、外国人の状況によって異なります。主なパターンごとに必要な手続きを解説します。
2-1. 海外から直接招聘する場合(新規入国)
海外にいる外国人を日本で雇用(招聘)する場合は、以下の手続きが必要です。
- 採用内定
- 在留資格認定証明書の申請(地方出入国在留管理官署)
- 在留資格認定証明書の発行(申請から1~3ヶ月)
- 外国人本人が母国で就労ビザを申請・取得
- 入国・就労開始
重要ポイント:在留資格認定証明書は発行から3ヶ月以内に使用しないと無効になります。また、就労資格によっては「日本人と同等以上の報酬を受けること」が条件となるケースもあります。
2-2. 外国人留学生を新卒採用する場合
日本の大学や専門学校を卒業する外国人留学生を採用する場合は、「在留資格変更許可申請」が必要です。
- 採用内定
- 在留資格変更許可申請(通常、就職前年の12月頃から受付開始)
- 在留資格変更許可
- 入社・就労開始
注意点:パートタイムやアルバイトでの雇用は、「継続的・安定的な就労」と認められず、就労資格が許可されない可能性があります。正社員として雇用することが望ましいでしょう。
2-3. 日本で就労中の外国人を中途採用する場合
既に日本で就労している外国人を採用する場合、前職と業務内容が変わる場合は在留資格の変更が必要になることがあります。
- 採用内定
- 在留資格変更の必要性を確認(必要に応じて「就労資格証明書」の取得)
- 在留資格変更許可申請(必要な場合)
- 在留資格変更許可
- 入社・就労開始
アドバイス:「就労資格証明書」は必須ではありませんが、取得しておくと在留期間更新の際にスムーズになります。ただし、取得には1~3ヶ月かかるため、余裕を持って申請することをお勧めします。
2-4. 外国人をアルバイト・パートとして雇用する場合
留学生などを短時間労働者として雇用する場合は、「資格外活動許可」の有無を確認します。
- 「資格外活動許可」の確認(在留カードの裏面)
- 労働時間の制限を確認(通常、週28時間以内。長期休暇中は1日8時間・週40時間まで可能)
- 雇用契約締結
- 外国人雇用状況の届出
注意点:風俗営業に該当する業務は、資格外活動では認められていません。また、労働時間の上限を超えて働かせると不法就労となります。
3. 外国人雇用状況届出書:提出は法的義務
外国人を雇用した場合、事業主には「外国人雇用状況の届出」が義務付けられています。この届出を怠ったり、虚偽の届出をした場合は、30万円以下の罰金の対象となりますので注意が必要です。
3-1. 届出方法と提出期限
届出方法は、外国人労働者が雇用保険の被保険者になるかどうかによって異なります。
① 雇用保険被保険者となる外国人の場合
- 提出書類:雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号)
- 提出先:管轄のハローワーク
- 提出期限:雇入れの場合は翌月10日まで、離職の場合は翌日から10日以内
- 電子申請:「e-Gov」から申請可能
② 雇用保険被保険者とならない外国人の場合
- 提出書類:外国人雇用状況届出書(様式第3号)
- 提出先:管轄のハローワーク
- 提出期限:雇入れ・離職ともに翌月末日まで
- 電子申請:「外国人雇用状況届出システム」から申請可能
3-2. 外国人雇用状況届出書の記入方法
雇用保険被保険者にならない外国人について提出する「外国人雇用状況届出書(様式第3号)」の主な記入項目は以下の通りです。
事業所に関する情報:
- 事業所番号
- 事業所名称
- 事業所所在地
- 電話番号
外国人労働者に関する情報:
- 氏名
- 生年月日
- 性別
- 国籍 / 地域
- 在留資格
- 在留期間
- 在留カード番号
- 雇入れ年月日または離職年月日
- 雇入れまたは離職の区分
記入の際は、外国人労働者の在留カードや旅券(パスポート)を確認して正確に記入しましょう。なお、届出時に在留カードのコピーを添付する必要はありません。
3-3. 届出の電子申請の活用
外国人雇用状況の届出は電子申請も可能です。電子申請を利用すると、24時間いつでも申請でき、窓口に出向く手間も省けます。
- 雇用保険被保険者の場合:「e-Gov」から申請
- 雇用保険被保険者でない場合:「外国人雇用状況届出システム」から申請
電子申請を初めて利用する際は、事前に利用者登録が必要です。過去に一度でも紙で外国人雇用状況の届出を行ったことがある場合は、「外国人雇用状況届出電子届出切替・変更申請書」を提出する必要があります。
4. 外国人雇用に関する実務上の注意点
外国人を雇用する際は、日本人従業員とは異なる配慮が必要になる場合があります。トラブルを未然に防ぎ、働きやすい環境を整えるためのポイントを紹介します。
4-1. 在留期間の管理
外国人労働者(永住者を除く)には「在留期間」が設定されています。期間満了前に「在留期間更新許可申請」が必要であり、更新できなければ就労を継続できません。
実務ポイント:
- 在留期間は在留カードで確認できます
- 更新申請は在留期限の3ヶ月前から可能
- 更新手続きの時期が近づいたら、従業員に声をかけ、必要に応じて書類作成等のサポートをしましょう
- 在留カードの期限をデータベース等で管理し、更新時期を把握しておくことが重要です
4-2. 雇用契約書・労働条件通知書の作成
外国人労働者との雇用契約は、トラブル防止のために書面で行うことが重要です。
実務ポイント:
- 可能であれば母国語または英語での雇用契約書を用意する
- 在留資格を取得した際に雇用契約が成立する旨を記載する
- 職務内容や就業場所を明確に記載する(在留資格によって従事できる業務に制限があるため)
- 賃金、労働時間、休日など労働条件を詳細に記載する
4-3. 社会保険・労働保険の加入
外国人労働者も日本人と同様に、条件を満たせば社会保険や労働保険に加入する必要があります。
実務ポイント:
- 健康保険・厚生年金保険:常時使用される従業員は加入義務あり
- 雇用保険:31日以上雇用見込みで週20時間以上働く場合は加入義務あり
- 労災保険:アルバイトやパートを含む全ての労働者が対象
- 社会保険協定締結国からの一時派遣者は、日本の年金加入が免除される場合あり
4-4. 文化・宗教への配慮
外国人労働者の定着には、文化や宗教上の配慮も重要です。
実務ポイント:
- 一時帰国のための休暇制度の整備
- 宗教上の祝日や礼拝時間への配慮
- 多言語での社内コミュニケーション体制の構築
- ハラスメント防止と相談体制の整備
- 食事制限(ベジタリアン、ハラール食など)への対応
5. 外国人雇用で活用できる助成金制度
外国人労働者の雇用環境整備に取り組む企業は、国の助成金制度を活用できます。代表的な制度を紹介します。
5-1. 人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
外国人特有の事情に配慮した就労環境整備を行い、外国人労働者の職場定着に取り組む事業主を支援する助成金です。
主な要件:
- 外国人労働者を雇用していること
- 就労環境整備計画を作成し、以下の措置を導入・実施すること
- 必須措置:①雇用労務責任者の選任、②就業規則等の多言語化
- 選択措置(いずれか一つ以上):③苦情・相談体制の整備、④一時帰国のための休暇制度の整備、⑤社内マニュアル・標識類等の多言語化
- 計画期間終了後の外国人労働者の離職率が15%以下であること
支給額: 支給対象経費(通訳費、翻訳機器導入費、翻訳料、専門家への委託料など)の2分の1(上限57万円) ※賃金要件(外国人労働者の賃金が1年以内に5%以上増加)を満たす場合は3分の2(上限72万円)
申請窓口: 各都道府県労働局またはハローワーク
5-2. その他の活用できる助成金
外国人雇用に特化したものではありませんが、以下の助成金も活用可能です。
- 特定求職者雇用開発助成金:特定の求職者(外国人も対象となる場合あり)の雇用に対する助成
- トライアル雇用助成金:一定期間試行雇用する場合の助成
- 人材開発支援助成金:従業員の職業能力開発を支援する助成金
これらの助成金を上手に活用することで、外国人雇用に伴うコスト負担を軽減できます。助成金は要件や申請期限が細かく設定されているため、利用を検討する場合は早めに労働局やハローワークに相談することをお勧めします。
6. 外国人雇用の成功事例とポイント
6-1. 製造業の事例:多言語対応と文化理解で定着率向上
A社(製造業・従業員100名)では、ベトナム人技能実習生10名を雇用していましたが、コミュニケーション不足から離職率が高い状況でした。そこで以下の取り組みを実施しました。
- ベトナム語対応の翻訳機の導入
- 安全マニュアルのベトナム語版作成
- 社内サインの多言語化
- 日本人社員向けのベトナム文化研修の実施
その結果、外国人労働者の定着率が向上し、生産性も20%上昇しました。これらの取り組みには「人材確保等支援助成金」を活用し、コスト負担を軽減しています。
6-2. ITサービス業の事例:採用から定着までの一貫したサポート
B社(IT企業・従業員50名)では、インド人エンジニア5名を採用し、以下の取り組みで高い定着率を実現しています。
- 雇用契約書の英語版を用意
- 住居探しや銀行口座開設などの生活サポート
- 英語と日本語のバイリンガルメンターの配置
- 日本語学習支援制度の導入
- オンライン帰国相談サービスの提供
入社後のサポート体制を充実させることで、外国人エンジニアの早期戦力化に成功しています。
7. 外国人雇用の今後の展望と準備すべきこと
7-1. 外国人雇用の将来動向
少子高齢化による労働力不足を背景に、今後も外国人労働者の受け入れ拡大が予想されます。特に以下の点に注目が集まっています。
- 特定技能制度の対象分野拡大
- 高度専門人材の獲得競争の激化
- リモートワークやハイブリッド勤務の普及による働き方の多様化
- 多文化共生のための地域連携の重要性の高まり
7-2. 今から準備しておくべきこと
外国人雇用を成功させるために、企業は以下の準備を進めておくとよいでしょう。
社内の受入体制整備:
- 多言語対応の就業規則の整備
- 外国人相談窓口の設置
- 翻訳ツールの導入
教育・研修体制の構築:
- 日本語学習支援プログラム
- 日本の商習慣や企業文化の研修
- 管理職向け異文化マネジメント研修
生活支援体制の整備:
- 住居確保のサポート
- 医療機関の情報提供
- 地域コミュニティとの交流機会の創出
まとめ:外国人雇用成功のカギは適切な準備と環境整備
外国人雇用を成功させるためには、在留資格の確認や各種手続きの遵守といった法的側面だけでなく、外国人労働者が安心して働ける環境づくりが重要です。
本記事で解説した通り、外国人雇用には特有の手続きや注意点があります。在留資格の確認、雇用状況届出書の提出、適切な労務管理を徹底し、必要に応じて助成金も活用しながら、外国人労働者の採用・定着を進めていきましょう。
また、一度雇用した外国人が長く活躍できる環境づくりは、企業の国際競争力向上にもつながります。文化や言語の違いを尊重し、多様性を活かせる職場づくりを目指すことが、外国人雇用成功の鍵となるでしょう。
法的免責事項:本記事の内容は2025年4月現在の情報に基づいています。法律や制度は変更される可能性がありますので、実際の手続きの際には最新の情報を確認するか、専門家にご相談ください。